意外と知られていない民法改正後の賃貸契約!
法改正も4年を経過しましたが、全体をご理解していない不動産業者も有るようです。
賃貸物件を借りる際はご注意ください!
今年のゴールデンウィークも後半に入り、亀戸の十三間通りも連日『歩行者天国』となり、車の通行は大変不便なのですが、例年と同じくらい人手が出ております。
令和2年4月1日に民法改正法が施行されましたが、今回は『住宅の賃貸借契約に関連する民法改正の概要』の説明となります。
とても長い内容になりますので、分解して掲載しようとも考えましたが、重要な改正法であるがため長文にて失礼致します。
民法の債権関係の規定について、明治29年の民法制定後、約120年間ほとんど改正されていない状況でありましたが、社会・経済の変化に対応し、日本国民一般にわかり易い民法とする観点から、法務省の法制審議会の債権関係部会に於いて審議されたものになります。
住宅の賃貸借契約に関連する主な改正事項等について
①連帯保証人の保護に関して
個人根保証契約の保証人の責任等(民法第465条の2)
※保証人保護の観点から、極度額(保証人が保証する限度額)を定め、かつ書面等で保証契約をしなければ、保証契約の効力が生じない事を規定したものです。
主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務(民法第458条の2)【新設】
※保証人保護の観点から、連帯保証人が賃借人の債務の履行状況について賃貸人に情報提供を請求できるよう新設された規定です。
個人根保証契約の元本の確定事由(民法第465条の4)
※個人貸金等根保証の場合の元本の確定事由の規律を一般の個人根保証契約にも拡大しております。この一つとして、保証人は借主の死亡時までに生じている債務についてのみ責任を負い、死亡後に生じる債務は負わない事が規定されました。
②敷金に関して(民法第622条の2)
※敷金については新規の規定になりますが、判例法理により定義その他基本的な取り扱いを規定しております。
③賃貸人による修繕等に関して(民法第606条)
※従来の通説を踏まえ、賃借人に帰責事由がある場合に賃貸人に修繕義務がないことが、但し書きにて追記されております。
④賃借人による修繕に関して(民法第607条の2)【新設】
※修繕は本来、処分権限を有する賃貸人のみが行えるところを、例外的に賃借人が修繕できる場合を明記したものです。新設の規定ですが、従来の通説によります。
⑤賃借物の一部滅失等による賃料の減額に関して(民法第611条)
文言を変えておりますが、内容的に改正前の同規定に同様になります。
⑥賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について(民法第616条の2)
※改正前民法には賃借物の全部の使用収益をすることが出来なくなった場合、賃貸借が終了するという規定がないことから、判例法理を明文化されております。
⑦賃貸人の現状回復義務に関して(民法第621条)
※改正前民法には明確に規定されていなかった賃借人の現状回復義務に関する規律の内容を明確にするものであり、通常損耗等の回復は原則として現状回復義務の内容に含まれないとする判例法理を明文化した内容となります。
以上が、『住宅の賃貸借契約に関連する民法改正事項』についての大まかな、ご説明になります。
賃貸物件を取扱う上では、大まかな知識では大変な事になります。
引き続き②~⑦の事項について詳しくご説明させて頂きます。
『連帯保証人の保護に関して』幾つかご説明致します。
個人根保証契約の保証人の責任等について
民法改正の条文(民法第465条の2)
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証(以下『根保証契約』)であって保証人が法人でないもの(以下『個人根保証契約』)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及び、その保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約に於ける第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
民法改正の概要
※保証人は、賃借人が長期にわたって家賃を支払わなかった場合や、賃借人が故意や過失によって賃貸建物を損傷したため、修理費用や賃貸収入を得られなくなったこと等により、契約時には予想できないような多額な損害賠償を請求される場合が有ります。
そこで、このような事態が生じないようにするため、保証人の保護の観点から『極度額(保証人が保証する限度額)を定め、かつ書面等で保証契約をしなければ、保証契約の効力が生じない』という改正前の民法第465条の2の規定を、貸金等根保証契約の場合に限らず、一般の個人根保証契約にも適用できるようにしたものとなります。
主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務について
民法改正の条文(民法第458条の2)新設
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証した場合に於いて、保証人の請求があった時は、債権者は、保証人に対し遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれ等の残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
民法改正の概要
※保証人が賃貸人から、賃借人が家賃を滞納していること等を長期にわたって知らされなかった為、請求を受ける時点では、遅延損害金が積み重なって、多額の保証を求められる場合が有ります。
そこで、保証人が賃借人の債務の履行状況について賃貸人に情報提供を請求できるように新設された条文になります。
具体的には、保証人から条文に書かれている様な賃借人の未払い状況等について照会があった場合、賃貸人は遅滞なく情報提供しなけらばならないと言う内容になります。
個人根保証契約の元本の確定事項について
民法改正の条文(民法第465条の4)
以下に掲げる場合、個人根保証契約に於ける主たる債務の元本は確定します。
但し、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行または担保権の実行の手続きの開始があった時に限ります。
債権者が保証人の財産について、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
保証人が破産手続き開始の決定を受けたとき。
主たる債務者または保証人が死亡したとき。
民法改正の概要
今回のブログは此処から後半に入りますが、もう少しご説明を続けさせて頂きます。
※本条は個人根保証に於ける元本の確定事由を定めたものです。
本条第1項は、極度額と同様に『改正前民法第465条の4』で個人貸金等根保証の場合の元本の確定事由の規律を一般の個人根保証契約にも適用したものになります。
本条第1項3号が、主たる債務者の死亡を個人根保証一般について、元本確定事由としているのは、保証人が主たる債務者としたのは借主である被相続人であり、相続人のもとで生じる債務まで保証することは予定していないと考える為です。
但し、主たる債務者(借主)死亡時の具体的な保証人の責任範囲は事案や解釈に異なる可能性が有ります。
以上が住宅の賃貸借契約に関連する民法改正の『連帯保証人の保護に関して』のご説明となります。
敷金に関して
民法改正の条文(第622条の2)【新設】
賃貸人は、敷金を授受している場合において、次に掲げる時は賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
賃貸借が終了しかつ、賃貸物の返還を受けた時
賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することは出来ません。
改正の概要について
※改正前の民法には、敷金に言及する規定(民法第316条、第619条第2項)は有りましたが、敷金の定義、敷金返還債務の発生発生の範囲、充当関係など敷金に関する基本的な規定は設けていなかったため、敷金に関する法律関係には解釈上疑義が生じていました。
そこで、敷金について判例や一般的な理解を踏まえ、定義そのほか基本的な取り扱いルールを定めた内容になります。
『賃貸人』による修繕に関して
民法改正の条文(第606条)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います。
但し、賃借人の責めに帰すべき事由により、その修繕が必要な場合は除外されます。
改正の概要について
民法第606条(改正前民法第606条第1項)は、本文改正は有りませんが但し書きが追記されました。
これは従来の通説によるものですが、賃借人に帰責事由がある場合に修繕義務は無いことを明文化した内容です。
『賃借人』による修繕に関して
民法改正の条文(第607条2)【新設】
賃借物の修繕が必要である場合に於いて、次に掲げるときは賃借人はその修繕をすることが出来ます。
賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにも関わらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
急迫の事情があるとき。
改正の概要について本条は、賃借人が修繕をすることが出来る二つの場合を定めています。
修繕は本来、処分権限を有する賃貸人のみが行えるところを、例外的に賃借人が修繕できる場合を明記したものになります。
新設の規定ですが、従来の通説によるものになります。
以上が『住宅の賃貸借契約に関連する民法改正』に伴います『敷金に関して』『賃貸人による修繕等に関して』『賃借人による修繕に関して』のご説明になります。
賃借物の一部滅失等による賃料の減額等に関して
民法改正の条文(第611条)
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益が困難になった場合に於いて、それが賃借人の責めに帰すことが出来ない事由によるもので有るときは、賃料はその使用及び収益をすることが出来なくなった部分の割合に応じて減額されます。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることが出来なくなった場合に於いて、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達成できない場合、賃借人は契約の解除をすることが出来ることになります。
改正の概要について
※改正前民法第611条の第1項の『滅失』を『使用及び収益をすることが出来なくなった場合』に拡充するものであり、『賃借人の過失によらないで』を『賃借人の過失によらないで』を『賃借人の責めに帰すことが出来ない事由によるもので有るとき』に変更するものであり、規定の同旨のものになります。
※改定前の規定は、賃借人の請求によって減額される効果が生じるものでしたが、改正民法では、当然減額の効果が生じるものとしています。
賃貸借の全部滅失等による賃貸借の終了に関して
賃貸借の全部滅失等による賃貸借の終了(民法第616条の2)【新設】
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることが出来なくなった場合には、賃貸借はこれによって終了します。
改正の概要について
※判例では賃貸物の滅失等の場合には、賃貸借契約の目的を達することが出来ないことが明らかであることから、賃貸借が当然終了するとしています。
改正前民法には規定が無かったことから、今回の改正で明文化されました。
賃借人の現状回復義務に関して
賃借人の現状回復義務(民法第621条)
賃借人は、賃借物を受け取った後に此れに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条に於いて同じ)がある場合に於いて、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
但し、その損傷が賃借人の責めに帰すことが出来ない事由によるもので有るときは、この限りでは有りません。
改正の概要について
※民法第621条は、改正前民法には明確にされていなかった賃借人の現状回復義務に関する規律の内容を明らかにするもので有り、この括弧内は、所謂通常損耗等の回復は原則として原状回復義務の内容に含まれないとする判例法理を明文化したものであり、此れ迄のルールは変えることは有りません。
以上が【住宅の賃貸借契約に関連する民法改正】のご説明となります。
不動産業界では、賃貸を熟知するまでが大変で、悪い言い方をすればコレまでにお客様が署名捺印される『契約書』を全く確認しないで契約する不動産業者も御座います。
賃貸契約をされる方は、ご契約時に説明される方にご不明の点や疑義が御座いましたら、質問される事をお薦め致します。
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