『心理的瑕疵』について!
売主等の説明義務については、民法上の明文は有りません。
告知事項とは⁈
前回のブログは『契約不適合責任』について掲載致しましたが、今回のブログは『心理的瑕疵』について考察したいと思います。
賃貸・売買共に『心理的瑕疵』の説明責任が御座いますが、当方の調査は『売主』からの告知や、売買される物件の周囲の方々からも情報をヒアリングしたりします。
但し、真偽については正確な証明する証拠が無いことが多いものです。
『心理的瑕疵』は、不動産取引の中では『売主の担保責任』『売主や賃貸人・媒介業者の説明義務』『物件の保管に関する賃借人の善管注意義務』といった3つの問題になります。
令和2年の民法改正で、『心理的瑕疵』の取り扱いはどうなったのでしょうか?
1,売主の担保責任は⁈
改正前の民法で売主の担保責任として『権利や目的物の瑕疵』【旧民法第566条・第570条】と規定されていたことにも関連しました。
不動産取引では、目的物に関する権利や、物理的・客観的な性能等に問題がない場合でも、買主や借主の物件選択の意思決定などに影響を及ぼす重大な事情、嫌悪すべき歴史的背景がある場合は、これも瑕疵担保責任における『瑕疵』の内容を構成するものです。
目的物件で過去に自殺や、重大事故の発生などを『心理的瑕疵』と称し、このほか住環境などに関連するものを『環境瑕疵』という場合も有ります。
民法改正後の契約不適合責任においては、『瑕疵』の概念が撤廃され『契約内容に適合するか』が基準となります。
過去の嫌悪すべき歴史的背景が契約不適合の問題として取り扱いしても、その該当性については、基本的にこれまでと同様の判断材料とされます。
但し、契約目的や当事者の認識など、主観を含む事項が重視される傾向が強まる見方も有ります。
東京地裁の事例でも有りますが、自殺・殺人など過去の嫌悪すべき背景が不存在が契約内容になっても、売主の責任を認める要因になりえます。
契約内容や目的が重視されることで、従来の『心理的瑕疵』に該当する事項を『契約不適合』として判定することで、親和性があると思われます。
2,売主・賃貸人(貸主)・媒介業者の説明義務について
売主等の説明義務については、民法上の明文は有りません。
民法改正の立法過程において、契約の一方当事者の説明義務を明文化することを提案されてましたが、その方向性に関して、契約締結に必要な情報は自己責任によって是正することを重視する考え方と、情報の偏在や契約主体の専門性の差異を説明義務によって何れかになります。
意見の一致を得るのも難しいことで、条文化されず『民法改正により心理的瑕疵の説明義務』の取り扱いの影響を受けることは有りません。
心理的瑕疵については、売主・貸主に告知義務があるとされて、媒介業者も物件広告においては『告知事項あり』等の表示をする取り扱いが有りますが、事象の発生後何時迄説明すべき等の明確な基準がなく、不動産流通の阻害要因にもなっているのも現実問題です。
国土交通省は、この心理的瑕疵についての検討会を、令和2年2月に開始し、令和3年10月に『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を公表しております。
3,目的物の保管に関する善管注意義務について
①民法第400条
特定物を引き渡すべき債務者は『善良な管理者の注意』をもって物を保管しなければならないとされております。
賃借人の自殺・孤独死など、心理的瑕疵に該当する事象が賃貸物件で発生すると、目的物の汚損や、その後の契約に関する賃料の減額などが生じて、賃借人の善管注意義務の有無などとして、相続人・連帯保証人と賃貸人(所有者)との間で、争いとなる場合が有ります。
②判例について
貸室における自殺事故について、賃借人の善管注意義務の違反に該当するとし、新たな入居者への当該事故の告知により、一定期間廉価により、賃貸人の相続人等に賠償責任を認めた事例も有ります。
貸室における自然死・事故死については、賃借人に善管注意義務違反は認められないとして、賃貸人の逸失利益に関する損害賠償請求を棄却する事例も見られます。
【東京地裁・平成29.9.15 RETIO110-124】
【東京高裁・令和5.9.14 RETIO133₋130】
③民法第621条
善管注意義務については、民法改正では実質的な見直しはされず、今まで通りになります。
人が室内で死亡した後に行う、特殊清掃・内装工事につき現状回復の問題として捉えますが、民法改正で原状回復について条文が設けられます【民法第621条】
賃借人負担が義務付けられる室内清掃・内装工事の範囲に関しては、この条文の解釈により決められます。
④高齢者の入居について
年々、高齢者の単身者世帯が増加する傾向になりますが、今後も賃借人の孤独死等が増加する可能性が出てきます。
このような事態は、単純に賃貸人と賃借人の契約上の問題とし、民法改正等により対応だけではなく、行政や社会全体による高齢者の見守り等の制度の確立や、賃貸人に発生した損害を補填するための保険制度の拡充などが必要です。
因みに、当方は町会を担当しており、見守りサービスに準じた巡回を取り入れております。
以上が、『心理的瑕疵』についてのご説明ですが、高齢者だけの問題ではなく、普段不摂生されてる方も対象になりますので、ご注意頂きたいと思います。

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