賃貸借契約の『原状回復』について
特約条項は『有効』か『無効』か⁇
賃借したら『原状』に戻すことが義務となります!
前回ブログで『賃貸借契約』について、基本的なご説明させて頂きました。
賃貸で一番神経を使う場面は、『原状回復』に関する問題が御座います。
不動産を貸す側としては、元通りできるのかどうか。
不動産を借りる側としては、なるべく出費を抑えたい考えが強いものです。
1,原状回復費用の負担確認について
建物賃貸借において、契約が終了し、賃借人が建物からの退去の際に『畳・ふすまの貼替、ハウスクリーニング費用を賃借人の負担』とされる特約事項
『返還すべき敷金から、上記の費用を差し引く』旨のトラブルが多いものです。
平成10年1月に、改正民事訴訟法により創設された『少額訴訟制度』では、このような問題から生ずる敷金返還請求も大いに利用されております。
その修繕・補修の必要が例えば、賃借人が煙草で畳を焦がしたり、襖をうっかり破いたり、賃借人の責任(故意・過失)に基づくもので有る時に、それらの回復費用は賃借人の損害賠償義務の履行として負担となり、敷金は賃借人の負うべき債務の担保であるので、敷金から控除することが出来ます。
ここで問題は、『自然損耗』『経年変化』による汚損・褪色(たいしょく)などを元の状態に戻す費用になります。
これについては、それに関する特約が有る場合と、ない場合に分ける必要があります。
また、令和2年4月1日から施行された民法改正により、原状回復についての規定が修正されました。
【改正民法第621条】
①賃借人に原状回復の『義務』があることを明記しております。
②但し、賃借人の責めに帰すべき事由がないとき、建物の経年劣化による通常損耗については、賃借人は原状回復義務を負わないことが規定されました。
❶特約がない場合は⁇
①賃貸借契約が終了時において、襖・畳・カーペットの貼替代、ハウスクリーニング代金等は、それが自然損耗・経年劣化によるものである限り、賃借人に負担させる旨の予め合意がない以上、賃借人に負担させることはできませんので、返還すべき敷金から控除できないものです。
目的物件が自然に損耗し、経年変化することは当然であり、賃借人に何らか責任はないもので、その負担は、賃料収入を得る賃貸人が負担となります。
②賃借人に負担させる旨の特約事項が無ければ、自然損耗・経年変化によるものを回復する費用は賃貸人の負担とするのが、従来の通説・判例の考え方になります。
③令和2年4月1日から施行された民法改正では、賃貸借契約の終了時における賃借人の原状回復義務を明文化するとともに、通常使用によるもの、経年変化によるもの、賃借人の責任によらない損傷については原状回復義務の対象外であることが明記されております。
【改正民法第621条】
❷特約がある場合は⁇
これに対して、予め『退去時における費用負担を賃借人がする』旨を特約している場合については、その特約事項を内容を2つに分けて検討する必要があります。
①『原状に回復して』明け渡す旨の特約について
賃貸契約終了時における原状回復費用の負担に関して、契約書の条項に『契約が終了して賃借人が建物を明け渡す』時は、賃借人は自己の費用をもち『原状に回復して明け渡す』といった文言が明記されることが多いものです。
この場合に、賃借人に何らか責任(故意過失)のない、自然損耗・経年変化による建物の汚損などの修復費用を、契約条項を根拠に賃借人に負担させることが出来るのか、賃借人に返還すべき敷金から控除できるかの問題がありました。
今日では、改正民法にてほぼ問題は解決してきました。
このような条項が定められている場合、『原状に回復』してという意味合いで、賃借人に責任のある汚損・破損の現状回復の費用を賃借人が負担するものであり、『自然損耗・経年変化』によるものは含まないと考える方は多いものです。
民法第621条
(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損耗(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了した時は、その損傷を原状に復する義務を負う。
但し、その損傷が賃借人の責めに帰すことが出来ない事由によるもので有る時は、この限りではない。
②賃借人の費用負担の範囲を具体的に明確に定めた特約
契約書の条項において、『襖・畳の貼替代、ハウスクリーニング費用は、賃借人の責任の有無にかかわらず、賃借人の負担』とする旨のように費目を掲げて明確にしている場合はどう対応すべきか⁇
上記の特約について、その特約の有効性については従来学説も分かれており、裁判例もまちまちで、一部判例を見ていただければと思います。
最高裁判例『平成17年12月16日』
『通常損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約の成立が認められるためには、同特約の内容が契約書自体に明記されているのか⁈』
『仮に契約書で明らかでない場合には、少なくても賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められることが必要』であると、賃借人が自らに責任のない損耗について原状回復義務を負うための要件とされます。
❸ガイドライン
この問題について、平成10年3月旧建設省の委託に基づく『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の研究成果が公表されておりますが、平成16年2月、この訂正がなされております。
ガイドラインでは、原状回復にかかるトラブルを未然に防止するために必要な事項として幾つか対策が掲げております。
①契約時における物件の確認を徹底すること
入居時に『付帯設備表・状況確認書』等のチェックリストを作成し、その部位ごとの現況を当事者が立ち合いの上で、十分に確認すること。
②原状回復に関する契約条件などの開示
賃貸人は、賃借人に対して原状回復の内容等を契約前に開示し、賃借人の十分な認識を得ること。
③『特約』について
賃貸借契約において『特約事項』を設ける場合は、以下の点に留意する必要があります。
❶特約の必要性があり、暴利的でないなどの『客観的・合理的な理由』が存在すること。
❷賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
❸賃借人が特約による義務・負担の意思表示をしていること。
このガイドラインは、その後平成23年8月に再訂正が行われ、現所回復の負担原則の契約書への添付による明確な合意の推奨や、質問・回答の見直し、裁判例の追加等が行われております。
④再訂正のポイント
❶原状回復にかかるトラブルの未然防止
1,賃貸住宅標準契約書との連動を意識した現状回復条件の様式の追加
2,原状回復費用精算書様式の追加
3,特約の有効性、無効性の考え方の明確化
❷税法改正による残存価値の割合の変更
賃借人の負担は、建物や設備の経年年数を考慮し、年数が多くなるほど負担割合が減少することになりますが、従来、償却期間経過後の賃借人負担を10%としてきたものを、平成19年の税法改正に伴い1円まで償却できるようになり、ガイドラインの設備等の経過年数と賃借人の負担割合も、これに伴い訂正されております。
❸Q&A、裁判事例の追加
平成16年改定後の主な関連判例21例が追加され、42例になりました。
2,賃貸借契約における特約条項の有効・無効について
賃貸借契約書に記載されております『特約条項』については、売買契約とは全く異なった観点から検討されるものです。
借地借家法の適用対象となる多くの賃貸借は、借地借家法により『賃借人(借主)に不利な一定の特約』は『無効』とされます。
借地借家法は、賃借権、賃借人の保護を図る目的から各種の規定を設けておりますが、私法の原則である『契約自由の原則』により、契約締結に際して貸主と借主の合意で、これらの規定を自由に排除したり、修正を認めては借地借家法の目的が未達になります。
そこで、一定の規定に反する特約で借主に不利なものは、無効とする旨を定めております。
【借地借家法第30条、第37条】
❶借主に不利な特約で『無効』とされた事例
借主に不利で『無効な特約』は幾つか事例が有ります。
①契約の解除原因に関する特約のうち一定のもの
❶借地契約につき、借地人は競売の申し立てを受けた時には契約を解除できる旨の特約
❷借主が差押えを受けて、破産の申立てを受けた時には直ちに契約を解除できる旨の特約
②賃借権の対抗力を排除する特約
❶賃貸借期間内に建物が競落されて、所有者が他人に帰属した場合は、賃貸借は終了する旨の特約
❷建物の所有者が移転した場合において、当初の当事者間にのみ存続する旨の特約
③更新拒絶や解約申入れの制限に反する特約
❶貸主の要求があれば、何時でも即時に明け渡す旨の特約
❷期間満了と同時に賃貸借契約が当然に終了する旨の特約
❸貸主から解約申入れ期間を短縮する旨の特約
❹貸主の更新拒絶に正当事由は不要である旨の特約
➎貸主が賃貸建物の敷地を譲渡した場合に、その譲受人が建物所有のための借地権設定契約を承諾しない時には、建物の賃貸借は当然に終了するといった特約
❷借主に不利な特約とは認められず『有効』とされた判決事例
①賃貸借物件の使用目的・使用方法を制限する特約
【最高裁昭和42年4月20日判決】
②貸室の無断模様替え、無断増改築、無断構造変更を禁止する特約
【東京高裁昭和56年9月22日判決】
③賃料を支払わない時は、催告なしに解除する旨の特約や、延滞賃料が3ヶ月以上に達した時は、催告なしに解除する旨の特約など賃料不払いの時の無催促解除等の特約
【最高裁昭和43年11月21日判決】
④無断の賃貸借譲渡・転貸を禁ずる特約
【民法第612条】
⑤借主は造作買取請求権を有しない旨の特約
※借地借家法第37条により無効とされる特約に、借地借家法第33条を排除する特約は含まれない
⑥合理的な範囲の更新料の支払い特約
【最高裁平成23年7月15に判決】
⑦期間を10年とする賃貸借契約において、3年以内に借主が解約した場合は、敷金を返還しない旨の特約
【東京地裁昭和50年1月29日判決】
以上が『賃貸借契約に関する原状回復』に関するご説明となります。
昔は、費用負担について曖昧でしたが、法整備されて貸主・借主どちらが責務にて費用負担する旨の内容になりました。
次回のブログは、専門業者による賃貸借について、細分化し、その内容を考察したいと思います。
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